龍の伝説

むかし、手力雄神社に毎日、朝早く暗いうちにお参りするおじいさんがあった。

その日も朝早く、「このごろ、畑を荒らされて困っております。どうぞ畑を守って下さいまし。」と、お参りをして帰ろうとすると、古井戸の方で、バッチャン、バチャ、ピチャと音がする。暗くてよく見えないが、何やら大きなものが動いている。

そうっとすかして見ると、何と驚いたことに龍だ。龍が井戸から頭を出して体をうねらせている。びっくりしたおじいさんは、腰を抜かさんばかりに家へ逃げ帰った。怖いもの見たさはだれにでもあるもの。おてんと様がのぼってから、井戸の周りがぬれていて、龍のらしい足跡がついていた。

そこで、おじいさんが近所の人に話したら、もう村中が大騒ぎになった。大勢の人が古井戸の周りに集まってきた。
「この足跡なら、こないだわしんとこの畑にもついちょったぞ。ひっどう畑をあらしゃがって。」「龍なんぞ、どこから来たんやろ。」と、みんな口々に言い合っていた。その中の一人が、お拝殿の上の木彫りの龍を見上げ、「見りゃあ、見る程、本当によう出来た龍や。生きとるみたいやなあ。」と言った。そして、「おい。この龍、ちょっと変やないか。」と、大声を張り上げたので、みんなが寄って来た。

「あれ。ちょっと体がしめっとらへんかな。」「そういや、そうや。そうしると、この龍の仕業やったんやろうか。」
「まさか。」
村人たちはキツネにつままれた思いで二頭の龍を眺めていた。突然おじいさんが言った。
「あっ、左側の龍が持っとった玉がないぞ。」
「玉なら、こっちの龍が持っとるわ。」
こんなことがあってからも畑はたびたび荒らされたそうだ。丸池や境川へ行く畑はもうぐちゃぐちゃ。そのたんびに、おじいさんは龍が持っている玉を見に行った。
(今日は左の龍が持っとる。やっぱ、この彫り物の龍やったに違いない。)
と、おじいさんは思い込むようになった。
村人たちもおじいさんの言うことがもっとものように思えて、寄り合う度に、「なんぞ、ええ考えはないもんかなあ。龍は神様のお使いかもしれんし・・・・・。」

村人と神主さまは、よくよく相談の上、お拝殿の龍が二度と出歩けんようにと、目玉に大きな釘を打つことにした。祟るとおそがい(岐阜弁で 怖い、恐ろしいの意)でようくおはらいをしてもらったそうや。

それからは、龍を見た人も足跡を見付けた人もなかったそうや。

(那加のむかし話 手力雄神社の龍 より抜粋)